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中小企業の経営者に役立つ記事を書いていきます。

リーダー人材をどのように育成するか

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インディビジュアルコンテンツの代表の本藤(ほんどう)です。今回は「リーダー人材をどのように育成するか」というテーマでお話しします。「社内にリーダー人材がいない・育たない」ことは、中小企業に限らず、全ての企業にとって、悩ましい問題の一つです。しかし、社内に明確な人材育成プログラムのある会社は少なく、「人材が現れるのを待つ」だけの会社が多い気がします。今回は、リーダー人材育成の基本的な考え方を取り上げます。

 

 

1. リーダーシップとは

 

リーダーシップを考える時、多くの場合、具体的な人物を想定します。会社であれば、上司やトップ、スポーツであれば、選手や監督、あるいはテレビに出ている有名人、歴史上の人物、名経営者、政治家等々。こういう人を指して、あの人はリーダーシップがあるとか、ないとか、といった風に考えることが多いでしょう。このように、実在の人物を対象にして、リーダーシップの特性を明らかにする研究は、古くからあります。しかし結論を申し上げると「あらゆるケースにあてはまるリーダーの特性はない」ということがわかっています。

 

社内のリーダー人材を考える時も、具体的な社員の顔を思い浮かべつつ、その人がリーダーにふさわしいかを考えることが多いと思います。「あいつは人望がない」「あいつは人柄はいいが、押しが弱い」等々。そこにはある程度の判断基準があるのかもしれませんが、多くの場合、その人の外面的な印象に引きずられがちです。印象で人を選ぶと、仕事の成果以外の点に目が向いたり、一貫性のない評価になりがちです。「社内にリーダー人材がいない・育たない」のは、ある意味、当然の帰結です。

 

 

2, リーダーシップを判断する軸

 

人のリーダーシップを考える上で、外面的な印象に引きずられないためには、明確な軸を設ける必要があります。ここでは、2つの軸で考えることにします。

 

一つめの軸は「仕事へのエンゲージメント」です。「エンゲージメント」とは、もともと「結びつき」という意味ですが、ビジネスにおいては、仕事への熱意・執着を意味します。日本語の「やる気」に似ていますが、日本語の「やる気」は、必ずしも成果に結びつくとは限りません。横文字で申し訳ないですが、ここでは「エンゲージメント」という言葉をそのまま用います。

 

もう一つの軸は、これも横文字ですが、「クリティカルシンキング(論理的思考)」です。「クリティカルシンキング」も、日本語として定着しつつありますが、客観的で物事の本質を捉えるという意味です(英語の「critical」には「批判的」という意味もありますが、「クリティカルシンキング」に、ネガティブなニュアンスはありません)。リーダーには、常に判断・意思決定が求められます。「クリティカルシンキング」が、リーダー人材に必要であることは、ご理解いただけるのと思います。

 

この2つの軸で、リーダー人材の特性を浮かび上がらせると下図のようになります。仕事への「エンゲージメント」が高く、「クリティカルシンキング(論理的思考)」に優れた人材が、「優れたリーダー」ということですが、まあ、これは当たり前と言えるかもしれません。注目していただきたいのは、それ以外のマスになります(「無能なリーダー」は議論の対象としません)。これらのマスに属する人材は、一見、リーダーにふさわしい人材に見えることもありますが、実際は「リーダーに満たない人材」です。

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3. リーダーに満たない人材とは 

 

リーダーに満たない人材」について、少し説明をします。

 

クリティカルシンキング(論理的思考)」は優れているが「仕事へのエンゲージメント」が低い人材。こういう人材は、俗に「評論家」と言われるリーダー人材になります。時に優れた意見を発し、衆目を集めることもありますが、優れた能力が故に、社内の問題や社員の欠点に目が行きがちです。当人にとっては、理想と現実のギャップが常に存在することになり、時に「上から目線」「他の社員を馬鹿にする」「会社批判」のような、ネガティブな態度として表に出てしまいがちです。これが行き過ぎると、周囲の人のやる気を削ぐことになります。

 

一方、「仕事へのエンゲージメント」が高く「クリティカルシンキング(論理的思考)」が低い人材。こういう人材は、俗に「叩き上げ(たたきあげ)」と言われるリーダー人材になります。このような人材は、自身の専門分野には並々ならぬ熱意を発揮するものの、それ以外の職務に関心がないということがよく起こります。また、「クリティカルシンキング(論理的思考)」が低いと、精神論に陥りがちであり、過剰ながんばりや忠誠心を社員に求めがちです。

 

では、「仕事へのエンゲージメント」も「クリティカルシンキング(論理的思考)」も、そこそこの「並のリーダー」がよいかと言えば、決してそんなことはありません。このタイプは、実務においては部下任せ、意思決定においては、他人の意見に左右され、優柔不断に陥りがちです。順風満帆の事業環境ならともかく、変化の激しい環境下では、何の役にも立たないということが起こります。その意味では、前2つのリーダー人材より劣ると思います。

 

私の印象ですが、大企業出身者に「評論家型リーダー」が多く、中小企業・創業者には「叩き上げリーダー」が多い傾向があります。また、日本全体で見ると「並のリーダー」が圧倒的に多い気がします。

 

 

4. 「優れたリーダー」をどのように育てるか

 

仕事への「エンゲージメント」が高く「クリティカルシンキング(論理的思考)」に優れた「優れたリーダー」は、実際のところ、稀有な存在です。その場合、「評論家リーダー」か「叩き上げリーダー」のいずれかから選ぶより他ありません(現実には「並のリーダー」が選ばれることが多いと思います)。「評論家リーダー」や「叩き上げリーダー」には、それぞれ、「エンゲージメント」「クリティカルシンキング」といった長所があります。また、もともと本人の能力や人格に問題がなくても、様々な要因で「優れたリーダー」になり損ねることもあります。しかし、「リーダーに満たない人材」が、そのままリーダーとなり、そのマイナス面が出てしまうと、時として社内は大混乱に陥ります。このため、リーダー人材の育成が不可欠なのです。では、「リーダーに満たない人材」を「優れたリーダー」に育てるには、どのようにすればよいでしょうか。

 

「評論家リーダー」の場合、仕事への「エンゲージメント」が課題であり、「現場で汗を流す」経験を積むことが必要となります。といっても、製造の現場で技能を身につけたり、研究開発で成果を出すことは、現実には困難です。ここでいう「汗を流す」は、会社の「数字を作る」(「売り上げを上げる」「製造コストを下げる」等)ことを指します。特に経営者を育てる場合、その会社の本業(製造業であれば工場や購買部門、商社・小売業であれば営業部門や店舗)において、その会社の主要KPIに直結する職務に就き、そこで具体的な成果を求めることが望ましいです。

 

「叩き上げリーダー」の場合、「クリティカルシンキング(論理的思考)」が課題です。「クリティカルシンキング(論理的思考)」を行うには、人事・財務・経営戦略(フレームワーク)等の経営ツールの理解が必要となります。実際のところ、これらの経営ツールは、MBAプログラム等でパッケージ化されており、通り一遍のスキルを身に付けることは、さほど困難ではありません(MBAプログラムを履修しなくても、webやビジネス書等を通じて、簡単に手に入ります)。知識の取得以上に大切なことは、自社の経営課題に対して「自身の視点を持つこと」です。そして、これを養うためには「議論をする」ことが必要となります。特に、経営者人材を育てる場合、現経営者が、育成したい人材に対し、自身の考える経営課題について絶えず意見や解決策を求めることにより、その人自身の視点が育成されます(実際は、現経営者が、いわゆる「イエスマン」を過剰に評価してしまうことがよくあります)。

 

いずれにせよ、「理想のリーダー」の育成は、一朝一夕にはなし得ません。これぞという人材がいれば、早くから目をつけ、適切な職務経験と能力開発の機会を与えることが不可欠です。

 

 

5. 補論

 

本稿は、Robert Kelley著「The power of followership」(邦題「指導力革命」牧野昇訳 93 プレジデント社、おそらく絶版、私は英書を読了しました。)をモチーフにしています。書名の通り、この本のテーマは「フォロワーシップ」ですが、「フォロワーシップ」を「リーダーシップ」に置き換えて、当方が書いたものです(本稿の用語は当方が考案)。「リーダーシップ」と言えば、「カリスマ性」「人間力」といった、曖昧模糊としたものに目が行きがちですが、フォロワーであれリーダーであれ、つまるところ「人材育成の勘所は同じ」ということを汲み取っていただければと思います。

 

 参考文献

 Robert Kelley著「The power of followership」